「見えやすく、分かりやすく、頼りがいのある司法」を実現させるための大きな柱の一つとして発足したロースクールは、現在、多くの困難をかかえています。ロースクール発足当初は、6万人近い法曹希望者が入学を希望し、その中には、従来の法曹が持たなかった知識や経験の持ち主が多数含まれていました。これらの人たちが法曹として巣立っていれば、日本の法曹界が大きく変化し、司法改革が目指した「見えやすく、分かりやすく、頼りがいのある司法」の実現に向かう歩みが始まったはずです。ところが、閣議決定までされた司法試験合格者の数は、法曹三者の都合で大幅に抑えられ、その結果、ロースクールを卒業したにもかかわらず、法曹資格を得られない者が多数生じるという状況が生じました。ロースクールがかかえる困難の多くは、ここに由来します。
そして、ロースクールを卒業して法曹になった弁護士を含めて、少なからぬ弁護士が、弁護士の増加が弁護士業務を困難にしていると主張し、ロースクール不要論までが唱えられています。しかし、弁護士業界の困難は、多くの中小企業の経営や国民生活が困難になっていることの反映であるとともに、この業界が狭い国内の訴訟業務にだけ目を向け、より広範な企業や団体、国民に法的サービスを提供しようとする努力を怠ってきたことに主たる原因があります。「弁護士業界の困難」を理由にロースクールの現状を放置し、さらに状況を悪化させるようなことがあれば、司法改革の根幹が揺らぐことになるのは明らかです。
私たちは、行き詰っている司法改革をさらに進めるためには、ロースクールと弁護士業界がかかえる困難を具体的に解決しなければならないと思います。
この二つの困難は分かちがたく絡み合っています。まず、ロースクールをとりまく基盤を強化しましょう。ロースクールを出た新人弁護士たちを励まし援助し、ロースクールを通じた着実な法曹人口の増加に展望を与えなければなりません。元気な若手弁護士の姿がこれまで弁護士がいなかった地域や企業、団体に広がり、さらには海外へと広がっていけば、さらに多くの若者や様々な分野の経験者がロースクールを目指します。今の縮小的動きから、拡大再生産の波が起こります。
そのために、私たちは、次のことを実行することを提案します。
1 ロースクールについて
- 司法試験の内容をロースクール制度に相応しいものに改めるとともに、合格率も制度発足の趣旨に沿うものにするよう関係各方面に働きかける。
- ロースクールの教育内容を真の実務家養成機関に相応しいものに改める。
2 登録した新人弁護士に対し、
- 経済団体や労働組合、消費者団体などと協議し、社内弁護士、顧問弁護士、相談員などの枠を数万社単位で開拓し、紹介する。
- 法廷外業務、企業法務、自治体法務、各種ADR法務などの高度かつ実践的研修を無料で提供する。
- 留学を援助し、渉外法務への具体的橋渡しをする。
- 専門分野に精通した弁護士を組織し、無料でその知識・経験を利用できる体制を整える。
以上の設立趣旨を実現するため、当会は、以下の活動を進めます。
1 ロースクール支援
- ロースクールを法曹養成の基礎的な機関と位置付ける以上、ロースクールが教育機関として成り立つ条件を整備することが不可欠である。
そうした条件には、@ロースクール卒業者(新卒者)の最低7割程度が司法試験に合格すること(合格率の上位校では、9割以上となること。)、
およびAロースクールを修了しないで司法試験に合格する方法が限定的であること、が含まれることは当然のことである。
こうした点を無視して、ロースクールを設立し、司法試験を運用してきたところに今日に問題の根源がある。我々の経験や諸外国の制度と法曹の質などからして、
ロースクール教育について一定の改善は必要であるとしても、現在のロースクール卒業生の7割程度を合格させても、法曹の質という点において、何ら問題がないと考える。
また、予備試験については、本来、経済的理由等によりロースクールを修了することのできない事情がある者に対する「救済策」として設けられたにもかかわらず、
実際には、若年者がロースクールで学びながら受験する「司法試験合格の短縮コース」となっている。こうした事態は、司法制度改革における中核的な改革と
位置づけられたロースクール制度の根幹を掘り崩すものというべきであって、これを改善する必要があることは明らかである。
- 以上の次第で、当会は、政府に対し、司法試験の合格者数を、ロースクール新卒者の7割程度が合格できる程度とすること、
および予備試験については、その制度の趣旨に合致するものとすべく、@合格者の数を大幅に制限すること、
A受験資格を制限すること(例えば、受験する年齢の制限やロースクール在学者の受験禁止など)を求めるものである。
2 教育内容の改善と再編成
- ロースクールにおける実務教育の強化
ロースクールのなかには、教育内容が学部教育の延長でしかなく、法律実務家を養成するための教育としては不十分なところもある。こうした点において、ロースクールの教育内容を大幅に改善する必要がある。
- 法科大学院の再編成
入学者が定員に大きく満たないようなロースクールについては、再編成もやむを得ないと思われるが、ロースクールを修了することが法曹となる事実上唯一の方法となる以上は、全国いずれの地においても、そうした教育を受ける権利を保障することが必要である。したがって、ロースクールの再編成にあたっては、各都道府県に1校はロースクールが存在することが望ましいし、諸事情でそれが実現しないとしても、少なくとも、いずれの都道府県においても、隣接都道府県にロースクールが存在することを必須とするべきである。東京に多くの法科大学院が集中する現実を前提とすれば、全体として50校程度になると思われるが、これについて率直に討議する場が必要である。
3 若手弁護士の事務所経営や留学などを励ます体制を整備し、確実な法曹増員をめざす
- 経済団体や労働組合、消費者団体などと協議し、社内弁護士、顧問弁護士、相談員などの枠を数万社単位で開拓し、紹介できる仕組みを作る。
- 法廷外業務、企業法務、自治体法務、各種ADR法務などの高度かつ実践的研修を無料で提供する。
- 留学を援助し、渉外法務への具体的橋渡しをする。
- 専門分野に精通した弁護士を組織し、無料でその知識・経験を利用できる体制を整える。
- 以上の課題に取り組むために、添付のような連続講演会を開催する。
政府は、2013年9月17日に法曹養成制度改革推進会議を設置し、2015年7月15日までに法曹人口やロースクールの改革について結論を出すとしています。司法改革が目指した「見えやすく、分かりやすく、頼りがいのある司法」の実現に向かうのか、「小さくて、分かりにくく、頼りがいのない」「二割司法」といわれた道を戻るのか、が問われています。私たちは、断固として前者の道を選び、「ロースクールと法曹の未来を創る会」を設立して、多くの人々とともに司法改革を前進させていきます。
以上
◆ロースクールと法曹の未来を創る会 規約
◆会費規程 |