ロースクールと法曹の未来を創る会、Law未来の会

 

2015年5月22日

「法曹人口の在り方について(検討結果取りまとめ案)」
に関する緊急声明

   ロースクールと法曹の未来を創る会


 内閣官房法曹養成制度改革推進室は、2015年5月21日、「法曹人口の在り方について(検討結果取りまとめ案)」(以下、「取りまとめ案」という)を公表した。ロースクールと法曹の未来を創る会(以下、「当会」という)は、取りまとめ案について、下記のとおり、当会の見解を明らかにする。

1 法曹人口の増大の方向性を支持する

 取りまとめ案は、まず、同推進室が行った法曹人口調査に基づき、法曹人口を全体として今後も増加させていくことが相当であるとした。同調査によると、国民の8割が「弁護士の知り合いがない」と回答し、「弁護士に依頼したい考えたことがある者」の3分の2が、「弁護士の探し方が分からない」などの理由で弁護士に依頼していないこと、大企業でも弁護士の資格を有するものを雇用しているのが僅か13%に過ぎない反面、弁護士を募集した企業の3割が、「応募がなかった」と回答していることなどからして、当然のことではあるが、取りまとめ案がこうした点を正しく評価したことは、当会としても高く評価するものである。


2 司法試験合格者の規模

 次に、取りまとめ案は、これまで毎年1,800人ないし2,100人程度の規模の司法試験合格者を輩出したことについて、「一定の相当性を認めることができる」とした。当会としては、政府が閣議決定までした「合格者3,000」を実行しなかったことが今日の問題を惹起せしめた最大の理由であると考えるが、取りまとめ案が、1,800人から2,100人程度の合格者についても「過剰である」とする立場に与しなかったことを評価したい。
 ついで、取りまとめ案は、「法曹養成制度の実情及び法曹を志望する者の減少その他の事情による影響を併せ考えると、法曹の輩出規模が(中略)1,500人程度まで縮小する事態も想定せざるを得ない。そればかりか、このまま何らの措置も講じなければ、司法試験合格者数が1,500人程度の規模を下回ることになりかねない。」とする。そして、こうした事態に対処するとして、法曹等の活動領域の拡大や司法アクセスの容易化を進展が必要であることを前提に、「新たに養成し、輩出される法曹の規模は、(中略)当面、これより規模が縮小するとしても、1,500人程度が輩出されるよう、必要な取組を進め、更にはそれにとどまることなく、関係者各々が最善を尽くし、社会の法的需要に応えるために、今後もより多くの質の高い法曹が輩出され、活躍する状況になることを目指すべきである。」とする。
 当会としては、取りまとめ案が、「1,500人でも多過ぎる」とする一部の意見に与せず、「1,500人程度が最低で、さらに多くを目指すべきである」という趣旨を明らかにしたこと自体は評価する。法科大学院の入学者が2000人近くにまで減少している現状に鑑みれば、「少なくとも1,500人程度」が司法試験に合格するとすれば、累積では法科大学院修了者の7割程度が合格することになるからである。ただし、当会がこれまで指摘してきたとおり、法曹を志望する者が減少している主たる理由は、法科大学院修了者の司法試験合格率が、当初想定された7割程度に遠く及ばないどころか、近年では単年度で20%台に止まっていることであり、問題の解決は、この点をすみやかに改めることにあることは明らかである。法曹人口拡大の必要性を認め、なおかつ、これまでの1,800人から2,100人程度の合格者数に一定の相当性があるという認識に立つ以上ば、少なくとも、当面、これまで合格者数の水準を維持するべきである。その意味では、取りまとめ案の決断は不十分である。それが、「司法試験1500人に半減」「合格枠目標半減」(読売・朝日)などというマスコミ報道の誤解の原因にもなっている。

3 法科大学院の位置づけ

 上記のような問題点はあるとしても、当会は、当然のこととは言いながら、取りまとめ案が、今後の法曹養成制度の改革にあたって、「引き続き法科大学院を中核とする法曹養成制度の改革を推進する」として、一部の「法科大学院不要論」を排し、法科大学院を法曹養成制度の中核に位置づけることを明確にしたことを高く評価したい。諸外国の制度や医師の養成制度とみるまでもなく、法科大学院制度を法曹養成制度の中核と位置づける以上、法科大学院修了者の大多数が司法試験に合格するべきは当然のことであって、今後の制度改革や実施にあたっては、何よりもそのことが留意されなければならない。

4 法曹の質

 最後に、取りまとめ案は、「法曹の質」に触れ、法曹の規模は、法曹の質を確保しつつ達成されるべきであると述べているが、当然のことである。しかし、問題は、国民や経済社会が、法曹に求める「質」が何かということである。一部には、「質」を理由に、司法試験合格者の数を抑制するべきであるという意見があるが、司法制度改革審議会意見書が述べたとおり、法科大学院制度が目的としたのは、「多様な法曹の養成」であって、従来型の「法律知識優先」の法曹をつくることではない。これからの法曹には、豊富な社会経験、自然科学や経済、経営に対する深い知見、高い語学力などが求められている。法科大学院入学者における「未修者」の占める割合の顕著な減少は、こうした要請に反する深刻な事態であって、法曹養成制度の改革は、こうした事態の改善を目指すものでなければならない。「数」は「多様性」の基礎であって、徒に司法試験合格者の数を抑制すれば、本来法曹に求められている「質」を維持できないことを銘記するべきである。学生に法科大学院教育の趣旨を説く、滝井元最高裁判事の遺稿を別途添付するので、参照されたい。

5 まとめ

 以上のとおり、取りまとめ案は、法曹人口の拡大が必要であるという正しい前提に立ちながら、現在生じている問題について、正しい解決策を提示していない点において問題がある。また、文言が不明確であるため、不必要な誤解を生んでいる。
 したがって、今後、顧問会議や関係閣僚会議において、上記の指摘を踏まえて、適切な修正がなされるべきである。

以上

 

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