ロースクールと法曹の未来を創る会、Law未来の会

活動報告

セミナー 「司法試験を『テスト』する―司法試験は正しく機能しているか―」の開催

 日 時 平成27年5月18日(月)午後6時〜午後8時
 場 所 第二東京弁護士会 会議室(弁護士会館10階1003ABCD)
     (東京都千代田区霞ヶ関1−1−3)

 当会主催のセミナー、「司法試験を『テスト』する―司法試験は正しく機能しているか―」を開催しました。
(同セミナーは月刊The Lawyers 2015年6月号(第12巻第6号)にて特集されました。)

司法試験合格者増員論に対する反論として挙げられる、法曹の「質」。しかし、それを担保するための司法試験は適切といえるのでしょうか。海外からの視点、法曹界の外部からの視点をも積極的に取り入れ、我が国の司法試験を検証する画期的な試みとなりました。
盛りだくさんの内容であったため、予定より時間を超過して終了しました。それでも、終了後、参加者の方から、「もっと聞きたかった」という声が上がるなど、大変な盛況を賜りました。

まず、同セミナー発案者である当会副代表理事の岡田和樹(弁護士(フレッシュフィールズブルックハウスデリンガー法律事務所))より、イントロダクションとして、自身が講師を務める法科大学院の優秀な学生が司法試験では半分しか合格しないという現状を目の当たりにして抱いた司法試験への疑問がこのセミナーに繋がったこと、さらに、自身でも実際に試験問題を解いてみて、その内容の適切性への疑念が一層強まったことについての話がありました。

セミナーは各報告者からの個別の報告に移ります。

報告者@ 鈴木幹太(当会理事、弁護士(弁護士法人キャスト))
当会理事である鈴木幹太から、自身が他業種から法科大学院を経て弁護士になった経緯について触れつつ、司法試験への思いを述べました。その中で、司法制度改革審議会の司法試験を含めた法曹養成制度改革についての提言に期待を寄せていたが、それが絵に描いた餅になりそうな現状についての危惧を示しました。

報告者A 後藤昭(当会常任理事、青山学院大学法科大学院教授)
次に、当会常任理事の後藤昭から、複数の統計資料に基づいて、現状の司法試験が抱える課題とその分析、さらに、今後目指すべき方向性と自身の提案する改革案についての報告を行いました。
その中で、当初の目標からかけ離れた低い合格率、特に未修者の合格率の低さを見れば、過大な知識を要求し、どのような業務もできる万能な法曹を作ろうとする試験の方向性そのものに果たして合理性があるのか、考えるべき時期に来ていると述べました。そして、今後は、受験科目の絞り込み、より現実的には対象範囲の絞り込みや、モニター受験制度の導入を行い、合格者数を維持し、合格率を高めていくことが、司法試験受験者を呼び戻すための方法ではないかとの提案を行いました。

報告者B コリン・ジョーンズ氏(同志社大学法科大学院教授)
同志社大学法科大学院教授のコリン・ジョーンズ氏から、まず、指導者としての立場から、学生が司法試験制度に苦しめられている現状を改善したいとの思いを吐露されました。その上で、米国の司法試験制度との比較の観点から、我が国の司法試験についての問題点を指摘して頂きました。
合衆国では、national law school systemにより、アメリカ法曹協会から認定されたロースクールを修了すれば、どの州でも司法試験受験資格を得られ、または弁護士資格を得られること、州の司法試験を受験する時点でもその州の法律知識はほとんどないそうです。さらに、実際の試験問題も示しながら、合衆国では、司法試験は正解までの筋道を考える能力を測るためのものとして機能していること、実務で必要な知識は実務で身に付けるものとされているため、司法試験は最低限の品質保証でしかないということが報告されました。
では、弁護士としての「質」は何によって確保されているのかというと、それは市場の原理、法曹倫理制度、そして損害賠償制度であるとのことでした。そうしたものの代わりを司法試験に求める姿勢については疑問を呈されました。

報告者C 酒迎明洋氏(弁護士(三宅・山崎法律事務所)、米国ニューヨーク州弁護士)
酒迎氏は、法科大学院修了後、弁護士登録し、その3年後、米国LL.M.課程に1年間留学し、ニューヨーク州の司法試験を受験して合格されました。短期で両国の司法試験を実際に受験し、合格した受験生としての目線から、両国の司法試験制度の違いについて語って頂きました。
米国の受験生は、ロースクール在学中は司法試験対策の勉強はせず、修了後、約2か月の間で予備校を利用して試験に向けた勉強を行います。
酒迎氏は、米国の司法試験は、科目が明示されないまま、与えられた課題に対してルールを適用して結論を導くというシンプルな能力が試される試験となっており、LL.M.課程を終えた日本の法曹資格者や実務家が約2か月間真剣に勉強すれば合格する試験となっているとの印象を語りました。選抜するための試験ではなく、実務に必要な最低限の知識や能力を確認する試験といった位置付けであるということでした。

報告者D 井上修氏(日本ヒューレット・パッカード株式会社 取締役・執行役員 法務・コンプライアンス統括部長 米国ニューヨーク州弁護士)
井上氏は、企業のグローバリゼーションの形をカテゴライズする見方について紹介し、日本に存在する社内弁護士の数は、海外のグローバル企業1社に所属する数と変わらない程度であることを説明しました。そして、社内弁護士には経営に関する理解が必要であり、その前提として、これからは法曹有資格者であることが求められると語りました。しかし、法科大学院で過ごす期間にそうした素養を育む時間はなく、それは現状の司法試験制度が試験対策のために時間を使うことを余儀なくさせているためです。井上氏は、そうした現状は日本の将来を支える土台となる法曹を輩出する上では疑問であり、これからの法曹が、議会や行政府、企業等様々な分野にフィットしていけるように、法科大学院がそのために機能するよう、試験制度を改めていくべきとの意見を述べました。

報告者E 鈴木雄介氏(医師、弁護士(鈴木・村岡法律事務所))
医師であり、弁護士でもある鈴木氏から、医師国家試験、医師の人材養成制度に照らし、「質」の担保という目的から見た司法試験の目指すべき方向性について、報告がありました。合格率、合格者数ともに高いとされる医師国家試験ですが、それ以前の医学部受験や進級過程において、熾烈な競争、継続的な研鑽が求められていることを考えれば、質の担保をどの段階に求めるかの差であるとの話がありました。また、質の担保のためには、優秀な人材を呼び込むことも重要であり、それには法曹志願者を増やすことが有効であり、それも資格試験の段階で求められることであるとの視点を提示されました。そして、資格試験と養成課程をセットで見て、国民に信頼してもらえるような「質」を確保できるようにすることを医師の養成制度は重視しており、背景は違っても、それを司法試験制度のあり方を考える際に参考にできるのではないかとの意見を述べました。

報告者F 斎藤浩(当会副代表理事、弁護士(弁護士法人FAS淀屋橋総合法律事務所))
当会副代表理事の斎藤浩から、最新の情報に基づく、韓国の法曹養成制度についての報告がありました。韓国では、5年5回という受験回数の制限のもとで、合格率が75%という高い水準に設定されています。また、試験に合格しても、法律事務所に入るのではなく、公務員や私企業に入る人数が一定程度あります(4分の1程度)。そうした事情を総合し、韓国の司法試験制度は、官公庁や企業での採用を念頭に入れ、そうした能力も試そうとしている、つまり幅広く社会で活躍できる法律家の能力の有無を試すものであることを目指しているとの分析結果について報告しました。

最後に、当会代表理事の久保利英明(弁護士(日比谷パーク法律事務所))が、我が国の司法試験の難しさの原因は、司法試験が弁護士だけではなく、法曹三者になるための試験であること、そのために万遍なく能力を有するかが試される試験になっていることにあると指摘しました。そして、法曹人口を増やすなという政策が、それと一緒になって現在の苦境を生み出している、としました。しかし、それらの問題点を解決することができれば、我が国の法曹養成制度は激変するはずであり、本セミナーでそのための足がかりを得ることができたと締め括りました。

 

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