セミナー「『弁護士就職難』の謎を解く」の開催
2015年3月5日
場 所 第二東京弁護士会 会議室(弁護士会館10階1005会議室)
(東京都千代田区霞ヶ関1−1−3)
当会主催のセミナー、「『弁護士就職難』の謎を解く」を開催しました。
(同セミナーは月刊The Lawyers2015年4月号に掲載されました。)
法律と会計を主な取材分野として活動されているジャーナリストの伊藤歩氏から、「弁護士就職難」の謎を解き明かす調査結果についてご報告いただき、「即独」してご活躍されている円城得寿弁護士(65期、円城法律事務所)、新人弁護士の多数育成されている飯田隆弁護士(宏和法律事務所)、井垣敏生弁護士(藤木新生法律事務所)から、ご経験に基づいた「弁護士就職難」の実態についてお話を頂きました。また、「即独」でありながら市民への法的サービス拡充に多大な貢献をし、ご活躍されている法律事務所MAIMEN(長野県須坂市 代表弁護士 藤原寛史氏(63期))についての取材結果を、当会事務局次長である多田猛から、自身の新人弁護士採用活動の経験も交えて報告しました。
各報告後には、参加者から率直な質問も相次ぎました。「弁護士就職難」がこれまでいかに客観的な検証を受けることもないまま、法曹人口減員の大義として掲げられてきたのか、その実態をあぶり出すこととなりました。
まず、当会副代表理事の岡田和樹から、今回のセミナーの趣旨が、法曹人口増員反対派の主張する「弁護士就職難」が真実なのか、それとも「都市伝説」にすぎないのかを解明するところにあるとの説明がされました。
・伊藤歩氏の報告
それを受けて、ジャーナリストの伊藤歩氏が報告を始めました。
伊藤氏によれば、「弁護士就職難」の根拠とされている統計は、「司法修習修了者で弁護士登録していない人が急増している」、「弁護士の登録を抹消する人が増えている」、「弁護士の所得が減っている」という3つについてのものです。「司法修習修了者で弁護士登録していない人が急増している」という統計は、12月の一斉登録の際に得られた調査による数字に基づくものであり、それ以降就職する人もいることを考えれば、この時点の数字をそのまま就職できない人であるとするメディアの書き方はミスリードなものであると指摘しました。
次に、「弁護士登録を抹消する人が増えている」という統計についても、新司法試験世代に該当する登録番号に着目すれば、その後の再登録の動きも踏まえると、留学のための一時的な抹消であるとか、弁護士研修を終えた裁判官・検察官による抹消、高齢による抹消も有意な数が存在し、登録抹消を弁護士について、弁護士が生活できないためであるとまではいえないと指摘しました。
「弁護士の所得が減っている」との議論についても、国税庁の統計上、弁護士は医師に次ぐ高所得職業に留まっている事実を挙げて疑問を呈しました。さらに、この議論に関連して弁護士間の格差拡大もいわれますが、全体から見ると、年収600万以下の人が膨らんできており、むしろ格差は縮小傾向にあると指摘しました。
また、弁護士の「質の低下」を叫ぶ声もあることについて、懲戒を受けている弁護士の数の推移に着目すると、新司法試験世代ではむしろ少ないとの報告がありました。
その後、参加者から統計上の所得変化に関する質問がありましたが、伊藤氏は、それが弁護士増員以外の要因の可能性も十分に考えられると説明しました。
・当会事務局次長多田猛からの報告
伊藤氏の後を受け、当会事務局次長の多田猛が、法律事務所MAIMENについての取材報告を行いました。
その前に、まず多田が自身の経営する弁護士法人Nextにおける新人弁護士の採用活動から、「弁護士就職難」は実体がなく、むしろ分野や地方によっては「人材難」すら起こっている印象があるとの報告がありました。
そして、多田から、即独された若手弁護士を代表とする法律事務所MAIMENが、若い力と創意工夫をもって、地域に根ざして大変な活躍をされていることについて報告しました。仕事は抱えきれないほどあり、数少ない他の事務所に回さざるを得ない場合も出ているとのお話でした。
・円城得寿弁護士からの報告
次に、滋賀県で即独開業して活躍されている円城得寿弁護士から、実際に即独をしてみてのご経験やお考えをお話しいただきました。円城弁護士は僧侶でもあり、「あなたを守るお坊さん弁護士」のキャッチコピーのもと、敷居の低い弁護士を目指して、成功されています。
即独した弁護士が抱きがちな不安についても、実際はどうなのかという点を一つ一つ説明されました。支援の必要な面はあるけれども、弁護士会等の周囲の協力もあって、思われているほどの困難はないことを強く印象付けるお話でした。
法律事務所MAIMENの取材報告も含め、地域によっては、即独であっても十分に仕事はあるのだと実感させられました。
・飯田隆弁護士からの報告
熱心に新人弁護士の育成をされている飯田隆弁護士から、自身の事務所での経験をもとにした報告がありました。優秀な修習生は二回試験後にも残っていること、就職難があるとしても、自身のような育成に目を向けた弁護士が受け入れれば解消できる程度のものであることについて、実感を込めてお話し頂きました。また、それを理由にして法科大学院制度を否定するのではなく、実務家ももっと法科大学院に協力して、早い段階から育成に力を入れるべきとの意見を述べられました。
・井垣敏生弁護士からの報告
やはり新人弁護士の育成に力を入れておられる井垣敏生弁護士からも、自身の経験をもとにした報告がありました。他の事務所では面接にも呼ばれなかった人や、社会人経験者を面接、採用して来られた経験から、魅力ある修習生が新しい制度のもとで集まるようになってきていること、法曹の能力が落ちたような意見には懐疑的であり、むしろ昔より頼もしいくらいに思っていることをお話しいただきました。重要なのは育成であり、「研修医」のような「研修弁護士」を受け入れる事務所が増えていくことに期待を寄せておられました。
その後、参加者から多くの質問がありました。その中で、飯田弁護士・井垣弁護士は、就職が決まっていない人の多くは、就職活動をしている期間が短いこと、面接において欠けているものがあり、それを指摘するとその後就職していく人も多いこと、就職難は「時期」によるところが大きいとの実感を話されました。
最後に、当会代表理事である久保利英明から、「弁護士就職難」が弁護士増員反対論の根拠として薄弱であることが実感できたとの話がありました。また、すでに東京と福岡の厚生労働省主管事業「雇用労働相談センター」に新人弁護士の活躍の場を提供していることを例に挙げ、今後も法曹増員だけではなく、若手に働く場所を与える、インキュベータとしての役割をLaw未来の会が担っていく決意を改めて示しました。
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